FM-AFMが明らかにする固液界面の微視的描像
— 最近の研究動向と今後の展開・ロードマップ —
Molecular-scale Understanding of Solid-Liquid Interfaces by FM-AFM
山田 啓文
Hirofumi Yamada
京都大学 工学研究科
Graduate School of Engineering, Kyoto University
本稿は電気化学会誌(Electrochemistry 80, 2012)特集掲載稿に加筆・修正し寄稿した。
1.はじめに
周波数変調原子間力顕微鏡 (FM-AFM) は、非破壊の高分解能表面観察法として表面科学分野では広く使用されているが[1]、近年、カンチレバー変位検出系の低雑音化が実現され、微小振幅周波数検出が達成されたことで[2]、液中環境においても高分解能FM-AFMイメージングが可能となり、分子スケール固液界面評価や溶液環境下での生体分子の高分解能イメージングへの応用に展開しつつある[3,4]。本講演では、液中環境での原子・分子分解能FM-AFM観察の現状について概説し、最近注目されているフォースマッピング法による分子レベルの3次元水和構造可視化、液中電荷分布計測など新規固液界面計測の現状について紹介するとともに、今後の技術予測についても合わせて議論したい。
2.FM-AFMによる固液界面計測
固液界面は、結晶成長、触媒反応など種々の化学反応、さらにはさまざまな生体機能が発現する活性場として重要な役割を担っており、近年、その微視的機構の解明に向けての研究が精力的に進められている。固液界面における水およびイオンの果たす役割は本質的に重要であり、界面上で形成される水和構造や電気二重層は、上記活性場の発現に直接的に関わっている。生体系においても、水和殻や電気二重層内外ではたらく静電的相互作用を通じて、たんぱく質構造安定性や生体分子間相互作用における基幹的役割を担っている。こうした固液界面系における水和構造や電気二重層を原子・分子スケールで解析することは、固液界面系が有する、さまざまな機能を理解する上で必須なものとなっている。従来、固液界面における水和構造の評価には、X線反射率測定、和周波分光法 (SFG)、表面力測定装置 (SFA) などが使用されてきたが[5]、これらの手法では界面と平行な面内の情報は得られず、また特定の領域や特定の生体分子周囲の水和構造の計測も困難であった。こうした中、われわれはFM-AFMによるフォースカーブ測定 (周波数シフトの距離依存曲線) に、この水和振動構造の影響が現れることを見出した[2,4]。詳細は4節で述べるが、このフォースカーブを試料上の各点で計測してマッピングすることにより (3Dフォースマッピング法)、試料面上の3次元的な水和構造を可視化することが可能となり、その応用範囲は格段に広まった。
3.溶液中における探針-試料間相互作用力
溶液中における2つの物体間にはたらく代表的な力としては、van der Waals 力、電気二重層力および溶媒和力が挙げられる。以下、これらの力に関して概観する[5-8]。
3.1 van der Waals 力
電気的に中性な原子間においても、量子力学的な双極子揺らぎのために、誘起双極子-双極子相互作用が両原子の間に存在し、いわゆるvan der Waals相互作用として知られている。先端半径RのAFM探針を半径Rの球として近似すれば、探針と距離dだけ離れた試料表面との間にはたらくvan der Waals力FvdWは、
と表される。ここでAHはHamaker定数と呼ばれ、加法的な場合は、2体原子間相互作用パラメータ、探針および試料密度などで表される。溶液中では、探針-試料間に存在する水が誘電媒体とはたらくため、単純な加法的力として計算することはできず、探針-試料間の電磁場の揺らぎを考慮するLifshitz理論を用いて計算する必要がある。Lifshitz理論でのAHの表現は非常に煩雑になるが、近似的には、以下のように表される。
ここで、εt(0)、εs(0)、εm(0)、nt、ns、nmは、探針、試料および媒質 (溶液) の直流誘電率および屈折率、また、kB、T、ωeは、Boltzmann定数、温度および光学領域の吸収角周波数を表す。実は、Lifshitz理論では物質を連続体として近似しているため、微視的領域における厳密計算には問題があるが、媒質 (溶液) の存在が相互作用力に与える効果を考える上では、有効な指針となる。一般に、水溶液環境では、van der Waals力は大きく遮蔽されることになる。van der Waals力は長距離力のため背景力としてはたらき、AFMのイメージングにおいては、分解能を阻害する因子となるため、van der Waals力の遮蔽は分解能的に有利にはたらき、液中での高分解能観察が可能な理由の一つになっていると考えられる。
3.2 電気二重層力
溶液中の物質表面は、表面基のイオン化や解離、溶液中のイオンの吸着などにより帯電している場合が多く、状況は極めて複雑である。試料上の表面電荷は表面近傍に存在する対イオンと電気的につり合っており、試料表面には電気二重層 (拡散二重層) が形成されている。探針表面上にも同様に電気二重層が形成されているため、溶液中において探針が試料に近づくと、互いの電気二重層の重なりによって相互作用力が生じることになる (電気二重層力)。電気二重層力は、静電的な相互作用であるマクスウェル応力と、統計力学的な浸透圧力の和で表され、探針が試料間の静電ポテンシャルをφ(r)とすれば、
いわゆるPoisson-Boltzmann方程式により記述される。κ-1はデバイ遮蔽長で、平行平板のような単純な系では電気二重層の厚さに相当する。ただし、nion、Z、eおよびεmは、各々イオン濃度、イオンの価数、素電荷および溶液の誘電率を表す。この方程式は非線形であり容易に解けないが、線形近似が成立し、2平面間の問題に帰着できる場合には簡単な表式となる (Derjaguin近似)[5]。例えば、探針を半径Rの球とし、距離dだけ離れた試料を平面とし、各々の表面電荷密度をσt、σsとすれば、電気二重層力FEDLは、
と表される。上記電気二重層力は、Derjaguin、Landau、Verwey、Orverbeekらによる先駆的研究によって詳細に解析されたことから、van der Waals力と合わせてDLVO力FDLVOと呼ばれる。
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図1. 種々の表面電荷密度の組み合わせ(σt、σs)に対するDLVO力FDLVO(実線、破線は電気二重層力のみを表す).(a) σt = 0.049 C/m2, σs = 0.049 C/m2. (b) σt = 0.049 C/m2, σs = -0.049 C/m2. (c) σt = 0.049 C/m2, σs= -0.0018 C/m2. (d) σt = 0.049 C/m2, σs = 0.0018 C/m2.
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図1(a)-(d)に、いくつか現実的なσt、σsの組み合わせにおけるFDLVOの距離依存性を示す。σt、σsの符号が異なる場合、静電的には引力となるが、片方の表面電荷密度が十分に小さい場合は、FEDLは符号によらず、浸透圧力のために斥力となる(図1(c), (d)の遠方部分)。
3.3 溶媒和力
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図2. 固液界面における水和構造模式図.左:水分子の密度分布n(z)を示す(n∞はバルク水の密度).
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通常、液体分子の密度は空間的に均一であるが、固液界面においては、その幾何学的境界条件および溶液分子と固体表面との相互作用のため、密度分布は不均一となり、固体表面に垂直方向に液体分子密度のプロファイルを描くと、分子密度は振動的に変化し、密度の極大や極小が現れる (図2参照)。この振動構造は溶媒和 (水の場合は水和) 構造として知られており、SFAやX 線反射率測定によって研究されてきた[5,9]。これら極大値間あるいは極小値間の距離は、おおよそ液体の分子サイズ程度である。
水和構造は、生体分子の構造安定化や生体機能発現と強く関連することから、分子レベルでの水和構造測定が望まれているが、局所的な溶媒/水和構造を直接調べる手段はこれまで存在しなかった。一方、計算による解析も十分には確立しているとは言えない状況である。現在、水和構造を求めるための理論的な計算法としては、分子動力学シミュレーション法あるいは3D-RISM (3Dimensional Reference Interaction Site Model) 理論などの自由エネルギー計算による手法が主に用いられている[10,11]。しかしながら、前者においては、バルク水の緩和時間は典型的には1psオーダーであるのに対して、水和層内の水分子の緩和時間はこれよりも何桁も遅くなることが予想されるため、十分なシミュレーション時間を取ることが必要となる。また、どちらの方法においても、モデルを最適化した上で、含まれる表面原子数および水分子数も十分に大きく取る必要があり、今後、実験結果と対応させながら、最適化を進める必要があるように思われる。
4.3次元フォースマッピング法
FM-AFM では、探針と試料の間の相互作用を周波数シフトとして検出しているが、この周波数シフトの距離依存性 (周波数シフトカーブ) を測定することで、相互作用力を求めることが可能である。これには、いくつかの方法があるが、現在、Saderの変換式を用いてフォースカーブを得る方法が一般的になっている[12]。溶液環境での実験では、精密なフォースカーブ測定から、探針-試料間にはたらく溶媒和力に関する情報を得ることができる[4]。フォースカーブを得るための周波数シフトカーブは、先ず観察像から所望の場所を決め、その場所の直上で周波数シフトのz距離依存性を単純に測定すればよいのだが、特定の結晶サイト上で測定を行うような高空間分解能での実験においては、しばしばドリフト等のために位置の不確定さを伴うことが多く、精密な議論を困難にする。しかしながら、測定対象領域となる全試料平面上での3次元的な周波数シフトデータを取得すれば、表面形状の再構成が可能となり、取得した周波数シフトカーブ (従ってフォースカーブ) と測定位置との対応が明確となる。この手法は3次元フォースマッピング法と呼ばれ、実際に、超高真空の低温環境下でのNiO(001) 上の解析に用いられた[13]。冒頭でも述べたように、近年、液中FM-AFMに大きな進展があり、現在、溶液環境下においても3次元フォースマップピングは可能となった[14-16]。
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図3.3次元フォースマッピング法の動作模式図.左:測定される周波数シフトΔf(z).ΔfがΔfmaxを越えると探針は遠方に戻る.
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現在、3次元周波数シフトデータの取得のための探針走査法として、2つの方法が用いられている。一つは、探針のz座標を決めて固定し (初期値となる、最近接点から開始する場合が多い)、このzにおけるx-y平面上の周波数シフトデータを取得、次にz座標 (すなわち探針-試料間距離) をΔzだけ変化させ、この測定プロセスを繰り返すことで、多数のx-y平面データからなる3次元フォースマップを得る方法である[17]。もう一つは、探針をz方向に走査して通常の周波数シフトカーブ測定を行い、x座標を変化させながらこれを繰り返すことで、z-x面内の周波数データを取得、さらにy方向に探針を動かすことで、最終的に3次元のフォースマップを得る方法である。後者の方法の測定模式図を図3に示す。液中環境における3次元フォースマッピングでは、主に後者の方法が使用されている。
3次元フォースマッピングにおいても、データ取得には時間がかかるため、探針-試料間の相対的な空間ドリフトの低減は必須となる。一つの周波数シフトカーブを取得するための時間をTとし、3次元のデータ取得のためのxおよびy方向の測定点数をnx、nyとすれば、全データ取得にnxnyTの時間を要することになる。z方向の走査周波数1/Tが20 Hzの場合、測定時間は7分近くになる。われわれの実験においても、実験装置の精密温度制御や溶液の蒸発対策などドリフト抑制のための十分な対策を行った。
5.局所水和構造評価
5.1 雲母結晶上の3次元水和構造
分子スケールでの液体密度分布は、密度動径分布関数として知られるように、分子サイズの体積排除効果の影響が顕著に現れる。2節でも述べたように、固液界面においても、その幾何学的境界条件および溶液分子と固体表面との相互作用のために、溶液密度分布はその分子サイズに対応する振動構造、溶媒和/水和構造を示す。われわれは、FM-AFM によるフォース (周波数シフト)カーブ測定によって、この水和振動構造が測定できることを見出した[2,4]。一例として、KCl水溶液中のマイカ単結晶表面上で測定されたフォース/周波数シフト曲線を図4に示す。
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図4. KCl 水溶液中のマイカ単結晶表面上で測定された周波数シフトカーブ (実線) およびフォースカーブ (破線) の例.フォースカーブはSader法によって求められる[16].
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測定曲線には約0.3 nm の周期の振動が再現よく観測されている。これは、原子レベルで平坦な試料表面上に存在する水和層を探針が通過するときに生じる溶媒和力によるもので、0.3 nm は水分子の大きさに相当する。以下では4節で説明した、このフォースカーブを試料上の各点で計測してマッピングする3次元フォースマッピング法による、マイカ上の水和構造測定結果について述べる。
マスコバイトマイカ (白雲母:KAl2(Si3Al)O10(OH)2) 基板は、へき開性を有して容易に原子的平坦面を得られること、表面が親水性で処理しやすいことなどから、生体試料などの高分解能観察基板としてしばしば用いられる。マイカは地球上に豊富に存在する珪酸塩鉱物の一種で、SiO4四面体を基本骨格とする層状の結晶構造を形成する。マイカの層状構造は、互いに1/3 格子だけシフトした、2つのSiO4四面体層とこれらの層に挟まれるAl3+を含む酸素八面体層、およびK+イオン層の4層がc軸方向の繰り返し単位となる。SiO4四面体層は比較的大きな空隙 (直径: 0.32 nm) をもつハニカム構造 (周期: 0.52 nm) を形成するが、この層のSi は1/4 の割合でAl に置換しているため負に帯電している。K+イオン層はこの負電荷を補償するとともに、2つのSiO4四面体層を結合させているが、この結合は弱いため、へき開によって(0001)面となるSiO4四面体層面が露出する。液中においては、SiO4面に残存するK+イオンは脱離し、SiO4面は水分子により水和していると考えられている。
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図5. (a) 3次元周波数シフトマッピング法により取得された周波数シフトのx-y断面像のスナップショット(z走査範囲: 1.6 nm). (b) (a)の3次元データから再構成されて得られたx-y像(3枚の等z面). |
図5は3次元周波数シフトマップのx-y断面の例である (z走査範囲: 1.6 nm)。図5(a)は実際に測定で得られるz-x断面像 (のうちの3例) であり、複雑なパターンはマイカ表面上の水和構造を示す (y座標固定)。これに対して、図5(b)は、5(a)と全く同じデータであるが、x-y像 (等z面) として再構成表示した結果である。 図5(b)において、x-y面内にコントラストがあるということは、力 (水和力) に面内分布があることを示し、探針が試料からある一定の距離離にあるときに、探針が受ける力の面内分布を示すことから、この表示は直感的に理解しやすい。すなわち、探針が試料から遠方にあるときは、バルク水における密度の均一性を反映して、ほとんどコントラストがないが、探針が試料に接近するにつれて、ヘキサゴナルな輝点を示すパターンが現れることが分かる。さらに接近すると、このヘキサゴナル輝点は反転し、ハニカム状のパターンを示し、3次元的な構造があることを示唆する。これらのパターンの面内の2次元周期は、完全にマイカの表面構造の周期性と一致しており、マイカ結晶の表面格子サイトに応じて、水分子の密度が異なることを示す結果となった[16]。
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図6. (a) マイカ基板上で取得した3次元周波数シフトマップから再構成した2次元フォースマップ(XY面). (b) (a)の破線を含む2次元平面の2次元フォースマップ(ZX面). (c) (a)に示したI, II, III におけるフォースカーブ.
I, II, III はそれぞれhollow サイト、bridge サイト、Si/Al サイトに相当する.
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上述の測定は、原子スケールの精密さを有しているものの、われわれが実際に測定しているのは、相互作用力であり、溶液分子密度そのものではない。このため、実験の正確な解釈には、理論との対応が必須となる。そこで、この結果を今井らの3D-RISM 計算によるマイカ上の水分子密度分布の結果、および塚田らのMD 計算による結果と比較し詳細に検討した。この結果、SiO4四面体サイト、ホローサイト、ブリッジサイト上でのフォースカーブが同定され (図6参照)、水和構造の結晶サイト依存性を精密に決めることができた[16]。
5.2 疎水性グラファイト基板における水和構造との比較
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図7. (a) グラファイト-超純水界面の2次元周波数シフト像. z = 0.5 nm における明るい帯は水和構造の存在を示す.(b) マイカ上水2次元周波数シフトマップ. (c) マイカおよびグラファイト表面上で取得された平均化周波数シフトカーブ.
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疎水性材料であるグラファイト基板上の水和構造を測定し、親水性基板であるマイカ基板上の水和構造との比較を行った[18]。図7(a)は、グラファイト基板上で得られた2次元周波数シフト断面像である。表面に平行に走る明るい帯状パターンが見られ、水和層が形成されていることが分かる。しかしながら、マイカ上の水和構造とは異なって、結晶サイト依存的な水和構造がみられず、一様な水和構造となっている。図7(b)にマイカ表面上の平均化された周波数シフトカーブとグラファイト上の平均化された周波数シフトカーブを示す。マイカ上の周波数シフト曲線では2つの極小値間の距離が0.22 nm であるのに対し、グラファイト上の周波数シフトカーブでは対応する距離が0.32 nm である。バルク相における水分子間の平均距離が0.28 nm であるため、上述した距離の差異は2つの表面の親疎水性の差異と関連していると考えられる。前節でも示されたように、マイカ/水界面ではサイト依存的な水和構造が形成されるのに対して、グラファイト上ではサイト依存的な周波数シフトカーブが観測されたことはなかった。この事実は、グラファイト上には一様な水和構造が形成されるという、分子動力学計算による先行研究の結果とも一致している。
6.今後の展望—技術予測ロードマップ—
(a)
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(b)
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図8. (a) 2009 年に報告された液中動作FM-AFM の技術予測ロードマップ.(b) 現状(2012 年)の技術レベルを踏まえ予想されるロードマップ.
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液中FM-AFM による原子・分子分解能測定が実現したことにより、その応用分野は格段と広がったと言えよう。特に生体試料の高分解能計測への応用は、今後もっとも精力的に進められると思われる。図8(a)は、2009 年に報告された液中動作AFM に関する技術予測ロードマップである。2009 年の時点では「液中高Qカンチレバーの開発」、「凹凸の大きな試料に対する高分解能イメージング」、「溶媒和3次元構造マッピング」、「液中電荷分布計測」などを、個別の技術課題として取り上げていたが(点線で囲まれた項目)、上述したように、既に現段階においても、これらの課題のいくつかは実現あるいは実現しつつあり、その予想を越える技術的展開の早さには驚かされるばかりである。これら現時点での技術展開の状況を踏まえて、考えられうるロードマップを図8(b)に示した。
固液界面の局所電荷密度、電位分布情報は、さまざまな産業的応用に直接つながることから、現在、その高感度・高分解能評価が強く求められている。一方、電気二重層は、表面の静電相互作用を遮蔽するため、その測定は容易でなく、実際、大気・真空環境で一般的計測手段となっている、ケルビンプローブフォース顕微鏡や静電気力顕微鏡の手法は、直接的には応用できないことが分かっている。本稿ではその詳細を述べなかったが、最近、フォースカーブ測定の精度が著しく向上したことで、フォースカーブ上の水和振動構造の遠距離側には、電気二重層力の影響が現れることが分かった。電気二重層力の情報は、表面電荷密度、電位の情報が含まれるため、新たな固液界面の局所電荷密度・電位分布評価法として、その今後のさらなる発展に期待したい。
謝辞
本稿で紹介した研究の一部は、科学技術振興機構・先端計測分析技術・機器開発事業および日本学術振興会・科学研究費補助金基盤研究(S)の下に遂行された。これら研究に関係された研究者の皆様に深く感謝致します。
参考文献
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